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No.4

10月3日 チョゴリザ初登頂など超一級の岳歴の藤平氏と会う。 登山紀行文集の書名に苦しんで再度の話し合いなのだ。 私からは 「終 (つい) の山」 という案、 氏は手帳を取り出して、 一篇の外国詩人の詩句を見せられる。
世の中とあまり激しく
戦っている内
私は中庸の心を失ってしまった
今は風に語らしめよ
神々よ私の作ったものを
許したまえ
大病を克服した後、 北陸銀行専務の職を辞された氏の今の心境なのだろう。 たちまちこの一節を書名に決したが、 私にとって 「中庸の心」 とは?
10月20日 この世には想像を絶するようなことをついに成し遂げてしまう人がいる。 古書店で見つけたサンスクリット語の仏陀の伝記 「ブッダ・チャリタ」 を独学で10年の歳月をかけ、 勤務のかたわら全巻の和訳を完成させた杉浦氏。 父上の急死にふれた 「あとがき」 原稿を今夕、 瞑目して受領する。
10月26日 苦しみ、 かつ恐怖にさいなまれながらも、 全十五巻に達する 「越中資料集成」 の刊行を決意した。 第一弾は 『富山藩侍帳』。 今年で県史編さんが終了するが、 その積み残した史料の何と多いことか。 今後は県公文書センターに収蔵される由だが、 これらは本来は公的に刊行されるべき性質のもの。 郷土史研究を深めるには不可欠だが、 日本史的貴重さに欠け、 従って販路のほとんど見込めないものだからである。 なぜ、 民間零細出版社が肩代りしなければいけないか、 本当に悩んだが、 新たな研究者や論文への先行投資と思い切った次第。 しかし、 しかし、 あまりに巨額な投資である……。
十一月四日 今晩も新潟へ電話。 はじめての広域多執筆者出版 『北陸の古代寺院』 のゲラ返却願い。 大変な編集作業だが、 やりがいがあって燃えているのが自分でもわかる。 難かしいものほどやりたくなって困るが、 他の出版人も皆こうなのだろうと自ら慰める。
十二月五日 相変らずオカネに不自由で、 今年もやっと8の新刊と3冊の再版。 世の人は 「再版でもうかりましたね」 とおっしゃるが、 心外である。 どれだけ売れるか、 新刊の何倍も時間がかかるのに……。 新しい年には小社にとって巨大企画の津田武美著 『日本海産魚類図鑑』、 富山大空襲を素材にした絵本 『キクちゃんの靴』、 徴兵史料を素材に大江志乃夫著 『村と戦争』 仮題など、 何年越しのものも陽の目を見るだろう。 小社も5年目を迎える。 (1986年12月10日 勝山敏一)