富山の出版社 本づくりなら 桂書房

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No.15 地球の危機は出版の危機……!

がらんとして何もない小さなアパートの一室に入ったのが1983年1月5日。 仲間どころか、 家族にさえ隠れての出発だった。 最初の原稿だけは既に印刷所に入れていたが、 これから始まる出版のことを誰かと猛烈に語り合いたかった。 誰もいない部屋で畳に座り込む。 孤独と切迫感の中で遠い将来のことを幾つか思った。 うまくいかずに破局を迎える日の来ること。 そして出版業の先行き不安として紙資源の不足のこと。 考えても仕方がない、 まだずっと先のことだ。 そう思い決して立ち上がったあの日。 10年目に入った今月、 「地球の危機は出版の危機」 という記事が業界紙に出た。 こんなにも早く資源問題が現実化するとは思いもしなかった。 年間点数が56億冊という日本の出版事業が消費する森林破壊は加速度的に進んでいる。 熱帯林の減少面積は一年で日本の国土面積の半分にも当たる。 6月の地球サミットで熱帯林の 「持続可能な開発」 が重要議題になっているが南北問題の狭間で進展は困難だろう。 しかし出版インフレともいうべき今の状態を放置してはおけぬ。 出版社として直ちに対応策を考慮すべしと幾つかの具体的な提案も添えてある。
①出版点数を減らす

②頁数を減らす

③頻度を減らす

④歩留まりの高い出版

⑤版を小さくする

⑥帯とブックカバーを止める

⑦会社として環境保護団体に加入する

⑧本の裏表紙に環境保護団体を紹介する

⑨本の印刷数と同じ苗代を出版のたびに植林団体に寄付するなど。

興味関心はあるが参加も行動もしない日本人の悪い行動原理のままなら、 危機は加速され、 森林の全体的な死の前に出版の全体的な死が訪れるだろう―。 これがその記事の主な内容だった。 私は慌てて社員の皆と語り合った。 皆も青い顔からやがて諦めの表情になりつつ、 小社のできることを直ぐにやろうと言ってくれた。 先ずは①の出版点数を減らすことだが、 今年は異常なほど出版点数が多くなる予定で今後は出版の可否の基準をさらに厳密にしなければいけないだろう。 植林事業への寄付は幾つかある関係団体をよく調べてみようということになった。 環境保護団体への加入もそれと併せて決める。 単なる贖罪行為ではないか。 「僕は知っている。 地球が抱えているこの難問を解く妙案なんかないことをね。 だったら他人にあれこれ言うより、 自分だけでもつましく生きる方がいい」 そう呟く人の声が聞こえてくる。 ああ。 (1992年2月20日 勝山敏一)