富山の出版社 本づくりなら 桂書房

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No.16 その言葉を言わせるもの―

「この世で大切なのは、 言葉なんかじゃないその言葉を言わせるものよ」 その人は叫ぶように言った。 若い頃だった。 発せられた言葉の一つ一つにもがき苦しんでいた私の眼からウロコが落ちた。 でも難しいんだな。 言葉の向こうにあるものを見つけるって。 それからだな、 出版屋になろうって考え始めたの。 子供みたいだった。 目の前に丘があれば、 駆け登って向こう側を見ようとする子供みたいに、 その言葉を言わせるものを探して来た。 そしたら気が付いた。 人はいつも反対側を見たがるって。 考えてみれば戦争をし、 子供を産み、 旅をするのも皆反対側を見たいからかもしれないな。 『オラを告発しろ!』 って叫ぶ人がいる。 その言葉の向こうにあるものは何か。 こんどのブックレットはそれに迫り得た数少ない本の一つと思うよ。 是非読んでほしいな。 桂書房は最近変わったと言う人がいるけど、 変わっちゃいないんだ。 歴史専門のようにやってきたけど、 探しているのはいつも同じ 「今の人の心中」。 それにしてもキツいな、 この旅は。 借金がたまって仕様がないよ。 儲かるような本て紙資源の無駄遣いのようなものだけど、 そうばかり言っておれないな。 アセっちゃって、 自然観察の本を出そうなんて言うと、 編集部員から 「やりつけない本は危険」 て突き上げられるし。 人ってあんまり色々考えてるんで困ってしまうな。 ア、 いけない、 つい愚痴が出て。 怖いよ、 言葉って。 いったん発したら責任があるもの。 そう言わせたものをいちいち探してなんてくれない。 一人で引き受けていかなきゃなんない。 民主主義ってそうだよね。 暴力を排しようと思ったら言葉に責任取らせていくしかない。 憎くて聞きたくもない相手の言葉だって、 最後まで聞かなきゃいけなくなる。 面倒臭いけど、 そう言わせてるもの、 その言葉の未来までも見抜いて論争しなきゃいけなくなる―私なんか難しいけど、 とうとう成立したPKO法案の審議の最後の公聴会で、 自民党の議員が反対意見の人の時にすごく野次っているのを見ると、 悲しくなったな。 ある雰囲気ができると一気に 「問答無用」 になる民主主義ってあり?愛がなくて不幸だよ。 愛なんてただの感情で、 真実じゃないというかもしれないけどね。 大きな愛は凄い感情で同時に凄い真実だと思う。 自然の中に出てみるとそれがよく分かるよ。 すべての草に頬ずりしたくなるもんね。 いちいち傷付かなくて済む愛はないのかって?ほどほどの愛はあるよ。 どんどん許して行けば良いんだ。 あれ、 何の話になったの?
とにかく、 言挙げすること―異議申し立てが民主主義の基盤だって言いたかった。 桂ブックレットのシリーズに私たちも期待! (1992年6月20日 勝山敏一)