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No.67 ずるい!みんな頑張ってるのに!

 祖父母の家に遊びに来た小さな甥や姪に、オトナなのに必ず居てだらだらと過ごしている鍋島綾さん(38歳)はよく言われた。「私もそう思う」と肩をすくめてきた彼女。「ゆるい人間」と見えようが、やりたくないことはしないと決めれば、生き方はどうしたってそうなる。やりたくないことを除けていくと、いかに人々が「普通」に依存しているかに気づく—北欧アンチィーク・バイヤーとなった彼女がエッセイ集『ゆるりと風に。ここは北欧』を出した。傑作である。小社では十年に一度あらわれるかどうか。ここは「ずるい」と非難するちびっ子の感性が歴史的なものであることに注目する。

 一六九八年、加賀藩は日雇い暮らしの人々に向け、商いの元手金の融資を開始するよう町役たちに命じる。世界でおそらく初めての「無担保・無利息」で、毎日一文を積み立てることだけを条件に、富裕の町人が質草さえ持たぬ貧民に連帯の手を伸べる民間の融資機構は、明治期まで二百年持続されて成果を上げる(拙著『元禄のグラミン銀行』)。ただし、仕法の条文末尾に「ただ暮らしせぬよう」という語句が出る。融資だけでなく、孤児や寡婦、老人といった生命の際にある人々には金穀を施与せよと命じる仕法で、施しを受けた者に「ただ暮らし」という蔑称を与え、毎朝夕に言い聞かせよとするのだ。人前で言い聞かせを受けるのがどれほど恥辱であることか。働かずに施与を受けるのは「ずるい」と決めつける藩の価値観がここにある。

 誰もが陥りかねない危難に備えて皆が毎日一文を積み立てる仕組みは今日の生活保護法そのもの。さりながら、自分がそれを受けるとなれば、ためらい、隠したいという感情に襲われるのは、三百年前のこの条文に源を持つのか。「犠牲は平等に」という当欄前号で紹介した歴史的感情はさまざまな局面に及ぶようだ。

 みんな働いているのにと言いたいところ、「みんな頑張っているのに」と少し婉曲するちびっ子たちの心はほほえましいが、頑張りを「普通」とする子を責めるのでない、「ゆるさ」をみんなで見直そうというのが「ゆるりと風に。」とタイトルを決めた綾さんの心願であろう。