富山の出版社 本づくりなら 桂書房

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No.10 創業以来の難所で…

●うまくいっていたことが嘘のように思える時が、 いつか来る。 スタート時からそればかり念頭にあった。 これまで8年、 何とかしのいでこれたが、 いつその日が来るかわからないから、 ついつい仕事を急ぐことになる。 難かしい仕事はむしろ喜んで引き受けることになる。 そのツケが一つ回ってきたようだ。 この3~4月に難かしい出版ばかり6冊も重なったのである。 編集作業の遅れや著者の都合で押せ押せになり、 この春に集まってしまったのだ。 各々はこれ以上延ばせぬ理由がある。 出すしかないが、 小出版社が2ヵ月に6冊も出版するなんて……。 加賀藩流通史の研究 (高瀬保)、 原色日本海産魚類図鑑 (津田武美) の二巨篇のほか、 資料集成5回目配本の應響雑記(下)、 図翁遠近道印 (深井甚三)、 小倉和歌百首註釈、 土に根ざした20年 (足立原貫) と続き、 さらにジャータカ・マーラー (仏陀の前世物語)、 遥かなる大地 (中本昌年) とつづくのである。 まともな営業ができるだろうか。 県内の書店の方々に今度こそご協力を願って回らなければならない。 ダイレクトメールだって発送しても、 読者の方々もこんな多くの新刊でまごつかれるにきまってる。 噫々…創業以来の難所にさしかかっている。

 

●この他に大幅に遅れている大物が2つある。 富山県文芸事典と越中国古文書集こんな当面の諸々に煩らわされていると、 当然その後の出版企画も出来ない。 ボクシングのボディブロウのように後でズッシリこたえるにきまっている。 本来、 出版社というのは 「出したい本」 があるから仕事をするもの。 「出さなければならない本」 にふりまわされてはいけないと思うのだが……。

 

●越中資料集成シリーズも既刊4冊のあと、 ついに一年以上の空白ができてしまった。 著者の方のご都合だけは、 どうしようもない。 元は全14巻のシリーズだったが、 これに最近、 別巻が付くことになった。 「越中真宗史料」 である。 県内五十余ヵ寺の史料探索を3年がかりで終え、 いま原稿化の最中だ。 新発見の貴重史料が相次ぎ、 その写真も撮影されたので、 解読本の先に 「図説・越中真宗史料」 も編集することになり、 今夏発刊の予定。

 

●小社の 「長い道」 が映画化されることは既に書いたが、 文庫も出るとは思いがけないことだった。 映画化の際は、 事前にちゃんと柏原悦子 (現井上悦子、再婚のため) さんからお知らせがあった。 いずれ映画会社かプロジュースの藤子不二雄氏からご連絡があるかと待っていたが結局なく、 柏原光太郎氏 (著作権者) に電話や富山で2回ほどお会いしてお尋ねしたら、 小社と悦子さんが取交している出版契約書を光太郎氏が失念しておられたため中央公論から文庫を出すことも既に決まっていることが判明した。 映画化のために出資した会社数社と東宝でも、 小社と交渉する必要が全然ないということになっていたのだ。 私は光太郎氏から 「申し訳ありません」 と謝まられ、 それ以上何も言えなかった。 裁判にでも訴えればいいと知人に言われたが、 結局やめた。 中央公論社や東宝を直接相手にするなら立つ積りもあるが、 故柏原兵三さんのご子息を相手になんて心情的にとてもできない。 「原作・桂書房刊」 のクレジットが映画に出なくても、 とにかく 「長い道」 がより多くの方に読んでもらえたらいいと格好のいいことを今は言うしかない。 かつて講談社で初刊され、 絶版になったものを小社が再刊し、 ついに文庫も出たという流れの中で、 小社はいったい何なのだろうと思う。 小社の 「長い道」 は文庫より長生きしよう、 絶対に絶版にしないぞ、 と言うのが精一杯……。 (1990年3月1日 勝山敏一)